リンドグレーンからのメッセージ
2020年は『長くつ下のピッピ』がスウェーデンで出版されて75周年の年。アストリッド・リンドグレーンは、『長くつ下のピッピ』をはじめ、『ロッタちゃん』『やかまし村』シリーズなどその著作は世界中で翻訳され、日本でも1964年に岩波少年文庫から桜井誠の挿画で出版されて以降、多くの著作が翻訳、出版されている。
リンドグレーンは、1978年にドイツ書店協会平和賞を受賞している。その授賞式での演説が『暴力は絶対だめ!』(アストレッド・リンドグレーン、石井登志子訳、岩波書店、2015年)にまとめられている。彼女が著作を通して伝え続けたメッセージがこの演説に凝縮されていた。
展覧会場にて購入。定価1000円+税
カバー絵は、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞した荒井良二氏が担当。
短い演説ですが、リンドグレーンの強い強いメッセージが込められていました。いくつも付箋を貼りました。
結局、人類が何千年にもわたって戦争をしてきたということは、絶えず暴力に訴えてきたということですから、わたくしたち人間の本質に何か設計ミスがあるのではないかと、自分自身に問うべきではないでしょうか?わたくしたちは、生まれもった攻撃性のために、絶滅することを運命づけられているのでしょうか?わたくしたちはみんな平和を望んでいます。手遅れになる前に、人間が生まれ変わることはできないのでしょうか?暴力と縁を切ることを学べないのでしょうか?ごく単純に、新しい人間になれるようにがんばってみるのです。そのためには、どのようにすればいいのでしょう?いったいどこから手をつければいいのでしょう?
わたくしは、根本から始めなくてはならないと考えています。子どもたちと一緒になって。みなさまは、子どもの本の作家に、平和賞を授与してくださいました。ですから、何か大きな政治的見解や国際問題解決のための提案を、わたくしの話に期待できないということです。わたくしは子どもたちのことをお話ししたいのです。子どもたちに対してのわたくしの不安と期待についてです。現在子どもである彼らも、いつかはこの世界を動かすことになります。その時、世界が残っていればではありますが。彼らは、戦争や平和、そしてどのような社会を望むのかについて、判断を下すことでしょう。暴力がのさばり続ける社会を望むのか、あるいは平和に、たがいに連帯感を持って生きていきたいのか。そもそも、わたくしたちの時代より平和な世界を、彼らが築くことができるという希望はあるのでしょうか?そして、わたくしたちがこれだけ本気であるにもかかわらず、なぜうまくいかなかったのでしょうか?
わたくしがまだごく若い頃、計りしれないショックを受けたことを今でも覚えています。わたくしたちの国や世界の運命に影響力のある人たちが、何ら卓越した能力や慧眼を持つ神ではないと、突然理解した時のことです。指導者たちは、わたくしと同じように人間的で、弱点のある人たちだったのです。ところが、彼らは権力を握っていました。そしてどの瞬間にも、彼らの衝動に左右されて、重大な決定がなされていたのです。もしもうまくいかなければ、時には戦争になったこともあったかもしれません。たった一人の権力欲、あるいは復讐心、あるいは虚栄心、あるいは強欲、あるいは―これが最もありふれているようですが―あらゆる状況において最も効果的な解決策として暴力を過信することによって。同様に、たったひとりの良心的で思慮深い人物が、暴力に訴えないことによって、大惨事を回避できることもあるのです。
(『暴力は絶対だめ!』p13‐16より引用)
1978年に、リンドグレーンが演説に込められた想いや願いは、2020年の今の世界にもあてはまり、まったく色褪せることのない強いメッセージであると感じる。
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